平成16年度群馬県総合教育センター教科教育G 図工・美術・芸術班 長期研修員 大久保 純夫
「見ること」の教育意義
「見ること」(Viewing)は、多くの場合、何かを考えたり表現したりするのに欠かせないことである。私たちは、対象をじっくりと見ることで、多くの情報を得て、豊かな認識をすることができる。
「見ること」の教育には重要な意義がある。子供達は、じっくりと見ることを意識することによって、「見ること」に関する感性を高めるであろう。感性の高まりは、作品などのよさや美しさなどによりよく気付く資質・能力の高まりである。そのような資質・能力が育った子供は、自らの感性を発揮してさまざまな対象の色や形などのよさや美しさを感受したり、それらを他者と共感し合ったりすることができるであろう。さらに、そうした経験を積み重ねて心豊かに生きていくことができるであろう。 私は「見ること」の教育の意義をこのように考える。
図画工作科における鑑賞は「見ること」そのものを内容とする教育であり、「見ること」に関する感性や、作品などのよさや美しさなどによりよく気付く資質・能力を育てることで豊かな心を育てる、大切な役割を担っているのである。
研究の概要
本研究は、美術作品の色や形など造形的な要素に着目する見方を意識して、そうした見方で作品について語ったり、友達の考えを知ったりすることによって、一人一人の作品の見方を深めようとするものである。
具体的には、「似たものペア探し」と題した活動で知った絵画作品の、色や形、及び解釈を問いかける問題文を個別に作った後、グループ内で問題文を検討し合う場面と、問題を出し合う場面における語り合いの有効性を検証するものである。
本研究のために、高学年を対象として『美術作品の「はてな?」を語り合おう』と題する全5時間の授業を構想した。
授業の第1時間目に行う「似たものペア探し」は、著名な絵画作品の図版カード集(20枚1組)を、4,5人のグループ内で見比べながら、題材や色や構図などの共通性が最も強い作品同士のペア(10組)を作る鑑賞活動である。この「似たものペア探し」は、「アートゲーム」と呼ばれる手法を取り入れて、私が考案した鑑賞活動である。「似たものペア探し」の特徴は、教師が、ペアになりそうな共通性をもつ絵画作品を予め選定し作成した図版カード集を用いて行う点にある。
子供たちは「似たものペア探し」を行った後、お互いのグループの結果を見比べる。そして数人の子供が、ペアにした作品の共通点を全員の前で説明するようにする。その際、教師の支援として、子供の説明内容に応じて、子供が見つけた共通点が「事物」「題材」「構図」「色調」「雰囲気」といった用語で表すことができることを知らせ、黒板にそれらの用語を示す。そのようにすることによって、子供たちが造形的な要素を絵画作品と対応させて直感的に理解できるようにする。
その後、一人ひとりの子供は自分が選んだ絵画作品のペアをじっくりと見比べて、友達に問いかけるための「問題文」作りを行う。問題の種類は@「指さして答えられる問題」(事物や色、形などを問いかける問題)とA「考えて答える問題」(解釈を問いかける問題)の2種類である。それぞれの問題を複数作る。
このようにして問題文を個別に作った後、グループごとに2度の語り合いを行う。はじめに行うのが、作品の内容から答えを導き出せる問題文かどうか検討し合う語り合いである。その後、メンバーを変えて行うのが、問題を出し合って答えを求め合う語り合いである。本研究は、これら2度の語り合いの有効性を検証するものである。